多頭化と買いエサ主体の”バブル酪農”はもう続かない

■時代の流れは変わった
 酪農家の現場では、円高で配合飼料や購入粗飼料などの買いエサが安くなったのに、所得は少しも増えないという声が多い。そういう人は、
時代の流れがもう完全に変わったことにまだ気がついていないのだ。
 1990年の牛肉の完全自由化、1993年のガットウルグアイランドの合意、そして共産国の市場参入による世界的デフレ現象で、これまでと逆の方向に時代が向いているのだ。
 ここでいうバプル酪農とは、乳量至上主義の多頭化、つまり乳量を上げるために多頭化し、買いエサをドンドン与える損益分岐点の高い経営をいう。
 時代が変わって予測できる未来は、
(1)生産調整、
(2)低乳価、
(3)より一層の牛肉価格の下落、

である。
雄子牛や廃用牛で儲けることのできたバブル経営の時代は終わったのである。だから、乳生産で所得率を改善した上で、1日当たりの平均乳量の増加(空胎の期間や繁殖管理を計算に入れた乳量)が最重要謀題なのである。搾乳だけだと赤字経営はいうに及ばず所得率30%にも満たない酪農家が多い中で、こういう時代をはるか昔に予見し、所得率60%以上を確実なものとして、70%近くを達成できる酪農家が現実にいることを、読者の皆さんはどう思うだろうか。

■自給飼料の飽食が基本の森山式酪農

 森山良一牧場は、九州は熊本県菊池郡にある。経産牛14頭、未経産牛5頭、育成牛15頭の小規模ながら、経営の中身はスゴイのである。森山さんは、佐賀県の酪農研修センターで酪農を学んだ。酪農を始めたころは農協や指導者の言うように、配合をドンドン増やして乳量を伸ばしてみた。しかし、そうすると乳量は増えても利益が減っていることに気づいたのである。そのとき、酪農研修センターでは、1日に4キロ程度の配合しかやっていないのに、40s以上も乳量を出す牛がいたではないか、と考え直したのである。だから、徐々に自給組飼料の給与量を増やし、4年くらい前から自給飼料を飽食させるようになった。8月から4月まではデントコーンのサイレージを1日1頭当たり40キロ、4月から8月まではイタリアンのサイレージをご30キロから40キロ飽食させている。
 森山さんは、あくまで栄養濃度が高く繊維濃度の低い粗飼料を飽食させて、乾物摂取量をどれだけ上げるかが、高泌乳・低コスト・繁殖管理バランスをとる基本だと言い切る。言い換えれば、このことに命がけでやっている。


「目標は乳量ではなく所得。所得の源泉は買いエサを減らし、TDNの高い自給粗飼料だ」という森山さん
 そのため、デントコーンであれぱ子実割合の高い、TDNが70%以上になる品種を選ぶ。乾物の量より質を追及している。そして、乾物率が30%以上になるまで刈り取らない。水分が少しでも多いと、乾物摂取量が落ちるからである。
 イタリアンの刈り取りの神経の使いようはハンパではない。なぜなら、1週間も刈り取り通期を逃したら、30%も摂取量が落ちることの恐ろしさをよく知っているからだ。 搾乳牛は14頭しかいないが、今のところ所得に余裕があるので、増頭するより、62〜63%の所得率を70%に上げることが大切だと言う。
それは、粗飼料の乾物摂取量を更に挙げて、買いエサを減らすことだと言う。その方法論は別稿で紹介するが、いたって簡単でアッケナイものである。
  年間平均乳量は8,000s、タンパク質、3.5%、全固形分率13.5%(脂肪率4.6%、無脂固形分率8.9%)。そして何よりも繁殖管理が素晴らしい。空胎期間は80〜90日と安定しており、繁殖障害や疾病にかかった記憶は、ほとんどない。しかも細菌数11〜12万と安定していて、高い乳価で売れる。だから、1日当たりの乳量が上がって、乳価も高いから所得率がアップするのだ。 森山さんは「豊作貧乏という言葉があります。乳量を上げれば所得が上がると考えるのは、この豊作貧乏の典型なんです。まず買いエサを滅らして所得率を上げる技術を確実なものにしてから、頭数を増やすという考えでなければ…」と言う。
 森山さんの給与技術は、8000sの乳量のとき、粗飼料の飽食以外にはプレミアムのルーサンが4キロ、乳配が1〜2キロ、大豆・トウモロコシの圧ペンが3〜4キロと、いたってシンプルである。シンプルではあるが、サイレージの質は写真で見るように、子実の詰まった乾物率30%以上の抜群のものだ。


今春の早播きは、3699とセシリアという森山さん。3699は東北・関東・九州と応用範囲の広い、マルチでスーパーな新品種


乾物率30〜35%だが、十分な踏圧とパイオニア1132が効いて二次発酵もない、ビニールの上はいわゆる「水ブタ」である。


子実が一杯で黄金色のサイレージ。もう少し鋭利な切断ができれば、もっと乾物収量が上がると森山さんは言う

■農協組織も経営のリストラが急務
 系統農協団体や配合飼料メーカーは、円高による畜産物の製品輸入により、今年度の配合飼料は、全体で百万トンも需要が落ち込むだろうという大問題に直面している。自給飼料の重要性を知っていながら、配合飼料の販売が組織の経営の中核に組み込まれている以上、エサ売りに狂奔する。
 しかし、多頭化と配合飼料多給は、酪農家の総資産を増大させ、それに対する利益率を落とし、あまりにもリスクの多い実りないバブル経営なのだ。
 牛肉価格の暴落、生産調整と低乳価の中を勝ち抜くのは、コストそのものの削滅、自給飼料の量と質の改善、コントラクター制度の積極的な導入によるソフトの対応なのだ。
 欧米のどこの国の酪農も、自給飼料の量と質の最大化をベースに、配合飼料を考える。その逆は、日本の酪農だけだ。その方法論が今まで可能だったのは、酪農の高度成長があったからこそであり、これからのものではない。 乳業メーカーは私企業だから、いくらでも海外戦賂をとれる。事実、日高とウルグアイラウンドを機に、海外戦略に急旋回している。海外戦略が不可能にもかかわらず、系統団体は未だに落ち込んだ配合飼料の販売回復が戦略の課題であって、農家が国際競争に生き残るにはどうすれば良いか、また農家の所得と所得率を上げるにはどうすれば良いかという、酪農家のための経営戦略を提示していない。それをするには、農協そのものの経営戦略の大転換とリストラが急務である。


デントコーンはTDN収量がカギだ。昨年リリースした「セシリア」は、あの3352より5日も早く、15%」も子実収量が上
もし酪農家が、森山良一さんのように本当に自給飼料の質を高め、乾物摂取量の最大化に取り組めば、高乳量でも買いエサは半分か3分の1に減ることだろう。
 西暦2000年のウルグアイラウンドの関税引き下げまで、あと6年。自給飼料をどれだけ食わせ込めるかの技術を身につけ、高泌乳・低コストに体質改善を図るまで、サイレージ作りの実際はあと6回しかないとも言える。