バブル酪農の検証と近未来のキーワード 我々は前月号で買いエサ主体で自給飼料を軽視したむやみな多頭化酪農はバプル酪農だと結論づけた。それは我々のビジネスがデントコーンをベースとした自給飼料ビジネスであるからという理由だけではない。このままのバブル酪農を続けていくと酪農そのものが崩壊の危機に瀕するとの真剣な危惧の念からの意見なのだ。牛肉の自由化による肉価格の暴落は酪農家に乳生産だけでも採算のとれる経営に変わらなくてはならないことを示唆した。しかし、現実には相変わらず、経営コストを無視した乳量至上主義の「買いエサ主体で多頭化する経営」やコストは安くても乳量が低下せざるを得ない時代逆行とも言うべき「放牧型」の経営が注目されてる。
残念だが、日本の酪農家の回りには、配合飼料や買いエサをビジネスとする情報と人間ばかりである。また、酪農家のステイタスはその収入や所得ではなく、乳牛の共進会におけるトロフィーの数や1万何干キロを出すとか出さないというレベルも多いことも事実である。そんなものは次の世代に譲る誇るべき資産でも何でもない。しかし、時代の変化という現実は、そんなものは何の役にも立たないことを教えてくれる。前月号で紹介した熊本の森山良一さんはたった1人の経営で14頭の経産牛しかいなくても、今回の表にある北海道の酪農家で40〜50頭以上も飼養しているほとんどの人達より所得率は勿論、所得額そのものも多いはずである。我々は自給飼料(サイレージ)の量だけでなく、質が如何に所得率と所得額にインパクトを与えるかを検証してゆくつもりである。
さて、世紀末の農業・酪農に於けるキー・ワードは次の諸点かと思われる。@1990年に始まった牛肉の自由化と個体販売価格の大暴落
A1992年のガット・ウルグアイ・ラウンドの合意‐低乳価
Bコメの自由化−土地の基盤整備問題
C中国の工業化と円安−穀物市場の大変化
D環境問題と法規制‐欧州(EU)の事例
これらの諸点は今後、解説を加えつつ、論評してゆくが、多次元方程式の如く、これらが座標軸となって、日本の酪農の方向を決定づける。その方向はバブル酪農と決別する新しいパラダイム(枠組み)なのである。それでは第1の座標軸と位置付けした肉牛の自自化を北海道酪農の実態に照らし考察する。
■牛肉自由化の衝撃度
今さらながら、酪農家にとって、個体販売価格の暴落は強烈なインパクトである。輸入牛肉が国内生産を上回り、チルドビーフの開発輸入の急増は品質的に乳用種と真っ向から衝突する。そのチルドも総輸入量の半数を超えてきている。ヌレ仔牛価格は自由化の前年の中頃の12万円前後から、現在2万円位と大暴落を呈している。問題は、酪農家は乳生産で経営をすることが本道であるから副業的な個体販売がダメでも影響は少ないはずであるが、酪農家は乳生産で儲かっていないのが現実なのだ。
日本で最も競争力があるはずの北海道酪農を「北海道の畜産経営‐平成5年度・診断、調査結果」(社団法人・北海道畜産会)のデータから検証してみよう。乳子牛おすの農家販売価格の推移
農水省統計情報部「農村物価指数」より
表 「北海道の畜産経営-平成五年度・診断・調査結果」TDN自給率別
自給率 全体 〜30% 30〜40% 40〜50% 50〜60% 60%〜 集計件数 67 1 12 28 14 12 家族労働力(人) 3.6 3 3.6 3.2 4.5 3.3 飼料作面積(ha) 40.9 43.1 43.3 36.3 37.8 52.9 常時飼養頭数(経産牛)(頭) 46.2 57.6 58.9 41.3 42.3 48.5 〃(育成牛)(頭) 39.6 42.6 53.2 33.6 34.9 45.1 生乳生産量(t) 335.7 423 463.1 311.2 289.6 312 経産牛1頭当り乳量(s) 7,266 7,344 7,859 8,536 6,844 6,429 10a当たり収量(牧草)(s) 3,356 4,215 3,014 3,457 3,282 3,477 〃(コーン)(kg) 2,822 0 3,120 3,388 2,318 2,025 乳飼比(経産牛)(%) 30.5 42.5 35.1 32.3 27.9 24 〃(全体)(%) 34.6 45.8 39.4 36.4 32.1 27.5 TDN自給率(%) 48.1 28.7 37.6 44.5 52.8 63.4 自給飼料TDN生産割合(放牧)(%) 7 28.1 3.9 6.7 6.5 9.7 〃(乾草)(%) 20.1 41.8 18.9 20 26 12.9 〃(グラスサイレージ)(%) 54.5 30.1 55 49.8 54 67.5 〃(コーンサイレージ)(%) 18.4 0 22.1 23.5 13.5 9.9 酪農売上高(千円) 29,824 37,114 41,398 27,555 26,041 27,351 当期純利益(千円) ▲1,782 ▲7,145 168 ▲3,046 ▲869 ▲1,400 所得額(千円) 6,656 1,258 9,368 5,323 7,167 6,907 生乳1s当り販売価格(円) 78.82 77.69 79.29 78.95 78.12 78.96 生乳1s当り総原価(円) 93.67 101.56 91.34 97.65 89.09 91.39 自給飼料TDN1s当り生産原価(円) 48.27 47.32 58.27 50.58 46.03 35.59 濃厚飼料TDN1s当り購入価格(円) 64.88 67.92 62.58 64.71 67.53 64.2 当期純利益率(%) ▲6.0 ▲19.3 0.4 ▲11.1 ▲3.3 ▲5.1 所得率(%) 22.3 3.4 22.6 19.3 27.5 25.3 家族労働力1人当り所得(千円) 1,873.70 419.3 2,614.30 1,674.80 1,592.70 2,072.00 売上高負債比率(%) 154.9 173.6 90.7 175.6 183.7 169.5
■北海道酪農もバプルである
この表はTDN自給率別の酪農経営を比較したものである。この表をよく検証してみると驚くべき経営実態と今後の方向を読み取れる。ポイントは次の諸点である。
ポイント@乳生産では全てが赤字である
自給率に関係なく乳生産では対象酪農家の全てが赤字であり、構造的赤字と言えよう。全体の平均が78.82円で売って、原価が93.67円ということはコストの大幅な低減・生産性の急速な改善(安定的乳量の向上)をしなければ債務超過で酪農家のみならず全体的な農協経営にも重大な結果を招きかねない(売り上げ高債務が154%で赤字企業なら通常は銀行融資は既に赤信号である)。
ポイントA酪農家の所得は労働対価だけである
中小企業にあてはめれば北海道酪農家は残業代で生計と会社をやりくりしている赤字企業の社長のようである。だいたい家族労働カ1人当り所得の高い農家の順に所得額が高い。TDN生産が30%以下の酪農家は買いエサが多く労働時間が少ない。しかし、頭数が多いにも関わらず収入が最も低い。
ポイントB乳飼比が異常に高い
構造的問題の最大の焦点はこの乳飼比の高さであろう。土地基盤を持たない府県の酪農ならいざ知らず、飼料作面積1ha当たり成牛頭数が1.66頭とヨーロッパ平均より広い土地を持つ北海道で、TDN自給率60%以上の酪農家ですら経産牛の乳飼比が24%と言うのは高すぎる。しかも乳量は6,500sに満たない。所得率70%を目指す熊本の森山さんの同乳飼比は10%であり、しかも乳量は8,000sである。コストが安くて生産が多いのだから所得率に格段の差がつくのは当然と言える。現実にエサ設計をする人達が乳飼比の高さの原因はTDN自給率ではなく、何をどのように自給するかということに多くの人が気が付いていないのだ。つまり、
(a)TDN自給率というのは農家が思い込んでいる自給率にすぎない
乾物摂取量が低く栄養濃度の低い(つまり、喰い込みの悪い)自給飼料をいくら作ってもTDN自給率が高いというだけで、乳牛の遺伝能力を最大に生かし、その潜在的乾物摂取量の絶対量を上げることにはならないのである。だから良質のコーンサイレージや開花前のアルファルファなどは乾物で14〜15sも喰い込むが、スーダンなどでは7sしか摂取しない。自給率が60%以上もありながら乳量が低く乳飼比が高いのは、自給飼料の質がエネルギー不足を決定的にしていると言える。放牧・乾草量グラスサイレージは無論、天候・土地の条件にもよるが、多くは栄養(エネルギー)濃度の低い、繊維の粗剛な喰い込みの悪い工ネルギー不足の自給飼料なのだ。そういうものを自給し濃度も価格も高い配合や濃厚飼料で補うようなやり方は配合を売る側の論理であって、農家側の論理ではないはずだ。
(b)飼料畑の生産性と自給飼料の質が鍵
研究熱心な酪農家なら平成3年・4年の自給飼料のデータを調べてみるとよい。平成5年は異常とも言える冷夏のせいで表のようにコーンサイレージの10a当り収量はグラスより低い。しかし、天候の良かった平成3年・4年の平均TDN収量でも1ha当り3.5tに満たない。高くつくようだがデントコーンを真空播種機で適正播種を守り、いい種子を選ぴチャント栽培管理を守れば10tは必ず取れる。デントコーンを飽食(自給飼料ベースのフリーストール等)、単味飼料で購入飼料を減らせば赤字で苦しむことなどないのだ。忘れてはならないことはデントコーンやアルファルファのような栄養濃度の高い繊維濃度の低い自給飼料の量、そして、何より質こそが乳量を上げ、コストを急減させる基本だということだ。決して濃厚飼料は自給飼料の質を補うことができないのだ。乳牛はNRCの飼養基準では働けない。その証拠にNRCには自給飼料の質に関する数字はどこにも載っていないではないか。