不耕起栽培、その大いなる可能性
【写真1】 不耕起プランターによる播種
全く耕起せずディスクで土に切り込みを入れ、種子を落とす。昨年の夏、我々は0.3haの畑でトウモロコシの不耕起栽培試験を始めた。この実用化を目指した試験は予想以上の成果を納め、わずか一年後の今年の夏までに熊本・宮崎・鹿児島の3県で昨年の100倍を超える約33haのトウモロコシが不耕起で栽培されるに至った。
この技術の拡大に伴い、不耕起が多くの人の知るところとなったが、初めて不耕起栽培を見る人々はほぼ共通して「畑を耕さないでトウモロコシが出来るわけがない」という感想を持つ。無理もない。我が国では長い間、耕起は農業の不動の前提になっており、誰もそれを疑いもしなかったからだ。しかし、不耕起でもトウモロコシが順調に生育してくるのを目のあたりにすると、驚きとともにその有効性を初めて認識するようになる。
農業技術は経験則の積み重ねだ。しかし、そのすべてが正しいとはいえない。
不耕起栽培は常識からの脱却から始まるといっても過言ではない。
■不耕起の真の価値。
【表1】 不耕起栽培の収量性
不耕起の条件 播種期 乾物収量(kg/10a) 慣行法 不耕起法 二期作トウモロコシ
(春播きトウモロコシ
収穫直後)97年8月中旬 674
(100)751
(111)遅まきトウモロコシ
(イタリアン収穫直後)98年5月下旬 1164
(100)1217
(105)
※2期作トウモロコシは、降霜が早く、十分に登熟しなかったため、収量は低かった。
【写真2】 連続して2回不耕起栽培をしたトウモロコシ
不耕起による影響は
全く見られない。不耕起栽培の収量性は大きな関心事だ。表1にそのデータを示したが、不耕起の収量は慣行法とほぼ同じか、それ以上の収量性を示している。
また、写真2はトウモロコシの連続不耕起栽培2回区と慣行法区の生育を比較した写真だ。驚くべき事に2回連続して不耕起でトウモロコシを播種しても、慣行法区と全く変わらない生育をしている。
しかし、不耕起の本当の価値は収量の絶対値だけで評価されるべきではない。不耕起の最大の特徴は、耕起作業をしないために大幅に労力、時間、燃料が節約される点にある。作業時間でいうと慣行法のおおむね5分の1だ。このわずかなインプットでほぼ同じ収量、つまりアウトプットが得られるならば、得られる利益は大きくなるはずだ。労働と生産性の革命的技術なのだ。
■成功のカギ。
既存のプランターは耕起を前提に作られているため、事実上不耕起播種は困難だ。このため不耕起栽培をするためには不耕起プランターという「ハード」が必要になる(不耕起プランターは耕起でも不耕起条件でも播種できる)。しかし、図1に示したようにこのハードもさることながら、不耕起栽培の成功の鍵は、
【図1】
不耕起栽培の成功の鍵
(1)雑草管理、
(2)適切な品種選択、
(3)土地の選択等
の「ソフト」が極めて重要となってくる。
不耕起の畑は耕してないため、播種時にはすでに雑草が多く、播種後も多くの雑草が発芽してくる。このため、いかにして効果的に抑制するかが極めて重要だ。適切な除草剤の選択と散布のタイミングは、最大の鍵となる(写真3)。
品種の選択も大きい。現在、トウモロコシの生育初期に残存するイネ科雑草を効果的に防除出来る除草剤は「ワンホープ乳剤」しかない。不耕起栽培にこの除草剤は極めて有効的だ。しかし残念ながらいくつかの品種は激しい薬害を生ずるため、注意を要する。
除草剤散布前
除草剤散布15日後
【写真3】完全防除された雑草
不耕起栽培は雑草防除が
最大の鍵となるまた、不耕起の場合、慣行法と比べると地温の上昇が遅く、土と種子の接触が不均一なため、初期生育が悪い。品種によっては生育の遅れが、苗立ち枯れ病を誘発することがある。
土壌条件も重要だ。粘土質が強く、水はけの悪い畑は適さない。幸いなことに我が国の畜産地帯の多くは、水はけの良い火山灰土壌に分布しているが、雨などの後、土が十分乾いていないのに不耕起で無理やり播種すると生育が非常に悪くなることがある。
不耕起栽培は基本的事項さえ守れば特に難しいことではない。是非あなたも挑戦を。