コーンの価値は消化率だけでは決まらない
−収量と栄養価をバランスさせて圃場当たりの
エネルギー生産を増やせ−

サイレージ用トウモロコシ品種は収量性と栄養性が同時に重要視される。近年ではこの観点から品種による消化率の違いも特性の一つとして取り上げられるようになってきた。消化率に品種間差がある事は多くの試験結果で明らかだが、その実用性については未だに発展途上の部分が多く、現場では誤った認識も多々見られる。そこで今回はトウモロコシ品種と消化率の関係を正しく理解するための基本事項を整理してみた。

■子実割合と消化率。
 トウモロコシの消化率を考える上でまず注目すべきものは子実割合だ。子実は茎葉部に比べて栄養濃度が高く、消化性にも優れているため、一般に子実割合が高ければ消化率もまた高くなる。子実割合の高低は品種の特性の一つだが、その値は栽培方法や環境でも変化する。例えば栽植密度を高くすると、子実割合は低下して茎葉部分が増えるので消化率は低くなる。(表1)

【表1】栽植密度の違いと消化率
 

総体
乾物率
(%)

乾物収量
(kg10a)

雌穂割合
(%)

デンプン割合(%)

ADF(%)

In-Vitro
消化率
(%)
栽植密度低い

31.4

1,480

54.7

36.8

20.0

73.2

栽植密度高い

30.3

1,556

49.5

35.2

21.1

72.1


*栽植密度の低い試験区(平均7,071本/10a)と
 高い試験区(平均8,992本/10a)の比較。
 同じ品種で栽植密度を変えた34ヶ所の平均値

【表2】収穫時の総体乾物率と消化率
 

総体
乾物率
(%)

乾物収量
(kg10a)

雌穂割合
(%)

デンプン割合(%)

ADF(%)

In-Vitro
消化率
(%)
乾物率
低い

27.2

1,480

49.3

32.0

23.6

70.3

乾物率
高い

32.2

1,542

51.4

37.7

20.5

72.7


*収穫時の乾物率が低い場所(21.4-29.8%)と
 高い場所(30.1-35.7%)の比較。
 品種はディアHT、各15ヶ所の平均値

 子実割合には刈り取り時の生育ステージの影響も大きい。表2は90日クラスのディアHTを、収獲時の総体乾物率が高い畑と低い畑のニグループに分けて違いを比較したものだ。
適期前に収穫した乾物率が低い(水分が高い)トウモロコシは子実が完全に充実していないためにデンプン割合が低く、逆に繊維割合は高くなるので消化率が低くなる。この場合乾物収量もまた低い。
 子実割合は子実収量と残りの茎葉部分の収量との比率だが、見た目の雌穂の大きさでは正確な判断はできない。また穂軸を含む雌穂収量を子実収量の代りに使うことが多いが、両者の相関は必ずしも高くない。さらに最近の研究では子実収量(割合ではない)は栄養性との直接の相関が低いことも報告されている。このことは消化率には子実以外の茎葉部分の影響も大きいことを示している。

■茎葉部消化率の品種間差。
 仮に二つのトウモロコシ品種の子実割合がほぼ同じで乾物収量にも差がなければ、茎葉部の滑化率の差は全体の消化率の差につながる。茎葉部分の消化率に品種間差があることは既に明らかになっており、実際その影響は子実割合より大きい場合があるとする報告もある。
 
注意が必要なのは、茎葉部の消化率 の値はあくまでも茎葉部分だけの消化率であり、トウモロコシ全体の消化率は子実部分との関係で決まると言うことだ。茎葉部消化率が高いこと自体は有益な形質だが、それだけでは品種として優れていることにはならない。

■「ブラウンミッドリブ」トウモロコシ
米国では茎葉部の消化性が特異的に高い「ブラウンミッドリブ」と呼ばれるトウモロコシの系統が一部の種苗会社から販売されている。1920年代に発見された
「ブラウンミッドリブ」は遺伝的に難溶解性のリグニン含量が低く、茎葉部 の消化性に関しては究極の品種とも言えるのだが、これまでのところ、この系統の品種に対する評価は一様に低い。この理由は「ブラウンミッドリブ」系統の品種は茎葉部の消化性には優れるものの、収量性が低く(通常の品種に比べて最大20%も低い)、また倒伏に弱い、初期生育が悪いなどの形質も遺伝的に併せ持っていることによる。肝心の消化性についても飼養試験による産乳性 の差は試験によってまちまちで、効果は安定していない。

■サイレージ用トウモロコシは収量性と栄養性のバランスが重要。
 このように消化率はそれだけで品種の優劣を判断する基準にはならない。サイレージ用品種の選択で重要なのは収量性も加えたトータルな生産性の比較だ。図1-2は表1に示した栽植密度の高い畑と低い畑の差を、乾物1トン当たりの期待乳量とヘクタール当たりの期待乳量に換算したものだ。栽植密度の高い畑のトウモロコシは低い畑のトウモロコシに比べて消化率が1.1%低いが、収量は5%以上高い。この結果、栽植密度の高い畑ではサイレージ一トン当たりの産乳量はやや低いものの、ヘクタール当たりの産乳量は約3%高くなる。粗飼料として単位面積当たりに生産するエネルギー量を重視するならば、この場合栽植密度が高い方が有利であることは明らかだ。この栽植密度による生産性の違いはそのまま通常の品種選択にも当てはまる。消化率が若干低くても収量のある品種の方が単位面積当たりの生産性は常に高くなる。消化率は現実には同じ品種でも圃場で異なり、その差は品種間差よりもむしろ大きい場合が多い。消化率を議論する前に、収量と栄養価を最大にするために収穫を適期に行うこと、子実割合を高めるために肥培管理を中心とした適切な栽培管理を欠かさないことをまず実行すべきだ。消化率の議論はこうした点を満たした上で初めて成り立つ。消化率は品種選択の最初の選択肢ではなく最後の選択肢なのである。

【図1】乾物1トン当たりの
期待乳量(kg)

【図1】1ヘクタール当たりの
期待乳量(kg)
図1−2 栽植密度の違いによるトウモロコシの乳生産性の違い
(表1のデータに基づく試算)