トウモロコシのマルチ裁培


目 次
1.目的 3.利用方法 5.栽培方法
2.効果 4.試験データ 6.経済効果

■マルチ裁培の目的
 トウモロコシサイレージは「量と質」が揃ってこそ、高エネルギーでしかも単位面積当たりの乾物収量も高いという自給粗飼料としての優れた特性が発揮されます。しかし現実はどうでしょうか。毎年異なる気象条件によりサイレージの品質は大きく変わり、特に冷害年には著しい品質低下も見られます。確実な登熟を得るためには早生品種の利用が一番ですが、少しでも収量を確保したいがためにはなかなか踏み切れないのも現実です。また根釧地方等のいわゆる裁培限界地帯のように、すでに極早生品種が裁培されておりこれ以上の早生化が不可能な場合もあります。
 トウモロコシのマルチ裁培は元々フランスで発達した技術ですが、パイオニアでは特に北海道における飼料用トウモロコシの安定生産を図る手段として次のような理由からその有効性に注目しました。

1. 気候変動に左右されずに、高品質のコーンサイレージを安定生産出来る。
2. 通常より晩生の品種が作付け可能となり、乾物収量が飛躍的に増加する。
3. 子実割合の増加によりより高エネルギーのサイレージ生産が可能となる。

 パイオニアでは1989年から、道内の関係諸機関の協力を得ながら専用の播種機とマルチビニールを用いた裁培技術の導入と普及に取り組んできました。その結果、現在では北海道内で約800Ha(平成10年)の面積でのマルチ栽培が行なわれるようになっています。

■マルチ裁培の効果
マルチ裁培自体は日本で生まれ、発達した農業技術であり、野菜裁培などで一般にもなじみのあるものです。トウモロコシ裁培における一般的な効果は以下のようなものです。
1. 初期生育の促進
2. 根系発達の促進
3. 生育の安定化
4. 単位面積当たりの乾物生産量の増加
5. 雌穂割合の増加
6. 登熟にいたるまでの期間短縮

■マルチ裁培の利用方法
トウモロコシのマルチ栽培は、用いる品種の熟期によって以下の3つに分けられます。

1. 標準品種によるマルチ裁培
 現在、路地で作付けしている標準品種(各地域で、平年であれば露地栽培で黄熟中・後期に達する品種)をマルチ裁培に用いた場合は、収獲時の乾物率30%以上、子実の登熟が黄熟中期〜後期という、サイレージ材料としての理想的条件を備えたトウモロコシが極めて安定して生産可能です。これは生育が早まることにより、平年では収穫時期が1週間以上も早くなり、数年に一度はある冷夏の年でも余裕を持って適期に収獲が出来るからです。この際、乾物収量の増加も見逃せないポイントで、マルチ裁培では同一品種の場合でも15〜20%の収量増加も同時に達成できます。
 標準品種によるマルチ裁培は現在極早生品種を裁培していて、露地栽培ではこれ以上の早生化が不可能な裁培限界地帯で極めて有効な手段です。

2. 早生品種のマルチ裁培
 畑作との複合経営では小麦の前作物としてトウモロコシが裁培される場合があります。この場合、収穫時期は通常より2〜3週間早くなるために、一般には地域における早生品種を用いて裁培されていますが、現実にはそれでも熟期に達しない、あるいは収量がやはり低いといった不満が聞かれます。マルチ裁培はこうした不満を解消するのに極めて有効です。早生品種利用とマルチによる生育早期化との相乗効果により、9月上旬の早期刈取りでも十分な登熟が得られ、しかもマルチの増収効果によって通常の裁培と変わらない乾物収量も可能となります。

3. 晩生品種のマルチ裁培
 マルチによる登熟期間の短縮、生育の早期化により、その地域で通常は黄熟期に達しない、あるいは登熟が不安定な晩生品種の作付けが可能になります。この場合の収穫時期は露地栽培と同じですが、乾物収量は標準品種の路地裁培に比べて25〜30%の増加が見込まれ、単位面積当たりの収量増加による極めて効率的なトウモロコシ生産が可能です。
 晩生品種の利用は、マルチ裁培の効果を考えると最も一般的な裁培方法といえますが、極端な晩生品種を用いると路地裁培同様に登熟が年によって不安定になります。量と共に質を考慮に入れるなら、晩生品種といっても地域の標準品種と比べて相対熟度で5〜10日程度までが限界といえます

■マルチ裁培の試験データ
 「飼料用トウモロコシのマルチ裁培」に関する試験は、公的試験機関への委託試験、各地の農業改良普及センターによる調査報告、パイオニア試験圃場での栽培試験などがあります。これらの試験から得られた共通の結果としては以下の点が挙げられます。

1. 生育ステージの早期化
 同一品種で、慣行栽培方法より7〜14日早く熟度が進む

2. 耐倒伏性の強化
 根系の発達が促進されることにより同一品種でも慣行裁培より倒伏の発生が少ない

3. 乾物収量の増加
 同一品種を早期収獲した場合=慣行法に比べて15〜20%の増加
 晩生品種を慣行法と同日収獲した場合=慣行法に比べて25〜30%の増加

4. 雌穂割合の増加
 品種および地域により反応性はやや異なる

5. 乾物割合の安定化

図1標準品種と晩生品種のマルチ裁培の効果(1991年北農試)
栽培
品種
処理 草丈
(cm)

雌穂高
(cm)
乾物率(%) 乾物重
(kg/10本)
乾雌穂
割合(%)
実規模
乾物
収量(kg/10a)
全体 雌穂 全体 雌穂
90日
「ディア」
無処理区 291 291 28.2 55.1 2.32 1.20 51.7 1,380
マルチ区 333 333 32.4 62.6 2.91 1.54 53.0 1,770
比 較
(無処理区対比)
+42 +42 +4.2 +7.5 +0.59
(125)
+0.34
(128)
+1.3 +390
(128)
100日
「3747」
無処理区 314 314 26.0 47.9 2.45 1.26 51.3 1,410
マルチ区 348 348 28.9 56.1 3.06 1.62 53.0 1,910
比 較
(無処理区対比)
+34 +34 +2.9 +8.2 +0.61
(125)
+0.36
(129)
+1.7 +500
(135)


図2早生品種と標準品種のマルチ裁培の効果(1991年北農試)

栽培品種

栽植
本数
(本/10a)

処理

雌穂長
(cm)

部位別乾物率(%)

部位別
構成比(%)

乾物収量(kg/10a)
雌穂 全体 茎葉 雌穂 雌穂
(同左比*)
全体
(同左比*)

80日


8,000 無処理区 16.2 18.9 18.1 36.4 22.0 63.7 36.3 373(100) 1,027(100)
マルチ区 18.3 17.9 20.3 50.5 26.4 51.8 48.2 691(185) 1,933(140)
10,000 18.2 17.3 20.3 50.5 26.4 51.8 48.2 800(214) 1,649(161)

90日


8,000 無処理区 16.5 19.0 22.4 46.5 27.5 49.7 50.3 661(100) 1,315(100)
マルチ区 18.1 19.4 27.3 56.8 31.4 46.5 53.5 958(145) 1,791(136)
10,000 18.6 18.1 27.0 56.2 31.1 46.9 53.1 1,089(165) 2,050(156)

慣行区
17.6 20.0 21.3 50.1 27.3 49.4 50.6 703(106) 1,390(106)

図3裁培限界地帯におけるマルチ裁培の効果(1990年根釧農試)
栽培品種 処理 出芽期 抽糸期 熟度 乾物率(%) 乾物収量(kg/10a) 乾雌穂割合(%) TDN収量(kg/10a)
全体 雌穂 全体 茎葉 雌穂
75日エマ 慣行区(A) 6/10 8/7 黄熟中期 26.9 50.4 1,176 540 636 54.1 855
マルチ区(B) 6/5 8/1 黄熟中〜後期 31.4 53.6 1,372 589 782 57.0 1,008
比較(慣行区対比) -5日 -6日   +4.5 +3.2 +196
(117)
+49
(109)
+146
(123)
+2.9 +153
(118)

写真1慣行法と比較した
初期生育の違い

写真2慣行法と比較した
雌穂サイズの違い

■栽培方法
1. 播種

飼料用トウモロコシのマルチ裁培は専用の播種機と崩壊性ビニールを使用して播種作業を行ないます。専用の播種機は、ビニールの敷設と播種を同時に行なうことが可能ですが、肥料の施用はできません。従って、播種作業の手順は以下のようになります。

1) 耕起〜土改剤施用までの作業は慣行栽培方法と同じ手順で行なう。
2) 肥料の施用はブロードキャスターによる散播で行なう。
3) ケンブリッチローラーによる鎮圧を行なう。
4) ビニールの敷設、播種、除草剤散布は専用播種機で同時に行なう。


写真3 マルチ裁培用専用播種機「プッラセム」


写真4 マルチ裁培播種風景


2. 収獲
 マルチ裁培においても収獲作業自体は慣行法と何ら変わりありません。ただし、トウモロコシの生育状態や収穫後のビニール処理については以下の点に注意が必要です。

1) マルチ裁培では慣行法に比べて生育が約7〜10日程度早くなります。収獲適期には注意が必要です。

2) マルチビニールは収獲時には崩壊して細かな破片となっていますが、風邪によって飛散しやすいので、収穫後はできるだけ早くディスキングを行なうか、堆肥の散布をしてプラウ耕(秋起こし)を行なってください。

3) 崩壊したビニールは伸縮性を失っていますので作業を阻害することはありません。

■マルチ裁培の経済効果
 飼料用トウモロコシのマルチ裁培は収量の増加と品質の安定をもたらすものの、一方で専用の播種機とビニールを必要とします。これらが生産費に上乗せされることによって生産コストが増加することが危惧されます。しかし、経済計算した結果によれば、マルチの利用により単位面積当たりの乾物収量が15%以上増加した場合は、生産コストは逆に低下することがわかりました。これまでの試験結果や生産現地での調査結果によれば、マルチ裁培による増収効果は15〜30%に達し、生産コストは上昇せずに、逆にコストの削減につながることが確認されています。


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