トウモロコシの不耕起栽培マニュアル


目次
1.はじめに
2.デントコーン不耕起栽培の歴史
3.不耕起栽培の生産性
4.耕起の意味
5.不耕起の本当の価値
6.不耕起成功の鍵

1.はじめに
 我国の農業技術は稲作を出発点としています。古くから土を深く耕し、細かく砕くことが作物の生育に良いとされ、飼料作物においても稲作と同様、耕起は不動の前提になってきました。
 プラウをし、丁寧にロータリーをかけた畑は絵を描く前のキャンバスのようにきれいで、本当に気持ちの良いものです。見るからに土は柔らかくなり、より高い収穫を期待させます。しかし本当にロータリーを3回かけた人は、1回しかかけなかった人より収量が上がったのでしょうか? 増収したとしても、それはロータリーを3回かけるのに要した人件費、燃料代、償却費を上回ったでしょうか? あるいは、耕起とは作物生産においてどんな意味があるのでしょうか? 不耕起で本当にトウモロコシはできないでしょうか? あなたはこんな基本的な疑問をもったことがありますか。
 アメリカでは1980年頃からデントコーンの不耕起栽培が始まりました。意外かもしれませんが、もともとの始まりはアメリカ的な合理主義、つまり播種作業の簡略化を目指したものではなかったのです。詳細は後で述べますが土を保護するために不耕起栽培は始まったのです。土を保護するために土を耕さないとは我々には理解しがたいかもしれません。しかし、これが本当の出発点で、播種作業の簡略化は不耕起栽培の副次的効果にすぎなかったのです。
 不耕起の研究過程で次々と発表された結果は日本人の常識に反し驚くべきものばかりです。多くの結果は、必ずしも丁寧な畑の耕起が高い収量を得ているとはいえず、不耕起でも慣行法と同様な収量を得る場合があることが示されたのです。しかし、なぜかこの技術は日本では実践されませんでした。
 デントコーンの収穫機が大型化し、あるいはコントラクターへの委託により、収穫が非常に短時間で出来るようになってきました。しかし一方で時間のかかる耕起や播種作業は昔のままです。今まで我々には不耕起でトウモロコシを作るという発想は全くありませんでした。しかし土を保護しながら作業時間を大幅に短縮できるのなら挑戦してみるべきではないでしょうか。
 我々は二期作トウモロコシを播種するために夜中まで畑で耕起作業をしている人々を知っています。過重な作業ゆえにトウモロコシの栽培をあきらめた人々がいることも知っています。あるいは、トウモロコシに比べソルゴーの産乳性が低いことがが分かっていても、二期作トウモロコシを播く時間がないため混播せざるを得ない人がいることも。
 不耕起栽培は国内において技術的な蓄積が少なくまだ完全でない部分があるかもしれません。しかし不耕起栽培の特徴は非常に短時間に播種をすることができ、労働生産性が著しく向上する点にあります。
 我々はデントコーンの不耕起栽培が普及することにより皆様が過重な播種作業から開放され、デントコーンの面積が広がることを願っています。

2.デントコーン不耕起栽培の歴史
 世界最大のトウモロコシの生産国であるアメリカでも19世紀の半ば以来プラウで畑を起こしトウモロコシの生産をおこなってきました。毎年春になるとコーンベルトでは何百万ヘクタールの畑が起され土壌が露出するため、わずかな雨や風で大量の土壌を失い、年々大きな社会問題になってきました。1950年頃になるとトラクターの大型化と土を耕起する機械の改良により、今までとは違ったトウモロコシの栽培法が始まりました。つまり、土壌流亡を減らすため前作の残稈を地表に残し、部分的な耕起でトウモロコシを播種する方法です。おもしろいことに、この方法でもプラウで行っていたものとほぼ同じ収量があるばかりか、作業時間が著しく短くなることが明らかになってきたのです。
 1970年後半から80年に入ると部分耕起がさらに進み、不耕起栽培というトウモロコシ栽培において革命的ともいえる栽培法が確立してきます。これには固い土でも播種できるプランターと、より効果的な除草剤の開発が大きく貢献していることは言うまでもありません。
このようにアメリカにおいても不耕起栽培はわずか20年余りの歴史しかありません。しかし、今日ではトウモロコシの約20%,ダイズの約30%が不耕起で栽培されているのです。

3.不耕起栽培の生産性
 不耕起栽培のデータを見ながら不耕起栽培の特性や注意点について検討してみましょう。
 恐らく不耕起栽培を始められようとする人にとって一番心配なことは、本当に不耕起で収量を得ることが出来るかといことでしょう。また不耕起は何回繰り返すことが出来るのかということが大きな疑問となるでしょう。以下のデータはこれらの疑問に答えてくれます。

 グラフ1はミネソタ州立大学で7年に渡り繰り返した試験の結果を示しています。通常のプラウと比較して連続7年不耕起を繰り返しても最初の3年間はあまり大きな収量差はありません。3年目以降にその差はやや大きくなりますが7年の平均の差は7%しかありませんでした。不耕起の播種に費やす作業時間は通常の20%程度でしかありませんので、7%の減はけっして大きなものとは言えないと思われます。


グラフ2はインディアナ州で行われた同様の試験です。このデータも不耕起の収量性が慣行法と引けをとらないことを示しています。しかし注意深くこのデータをみると排水の悪い土壌では不耕起の収量が低くなっていることがおわかりでしょう。これ以外の多くのデータも排水の悪い粘土質の土壌ではほぼ共通して不耕起は悪くなっています。
これは、排水の悪い土壌では地温の上昇が遅れ、これにより初期生育が抑制され、しかも多湿な条件に弱いデントコーンの生長そのものが悪くなることによるとかんがえられます。
このような土壌では、不耕起栽培より耕起することにより排水を促すことが重要となるのです。
グラフ3.1〜3.3は九州農業試験場のデータを示したものです。この試験は厳密な不耕起ではなく播種する部分だけを部分耕したものと慣行法の比較ですがほとんど収量差はありません。

グラフ 3.1〜3.3
部分耕・施肥播種法及び全面耕起法における夏播きトウモロコシの生育・収量(1991年)

九州農試データより)





グラフ4は我々が熊本で行った試験のデータを示したおります。不耕起でも慣行法でもほとんど収量に差はありません。しかも不耕起を2回繰り返して畑でも収量差がないことは驚きです。

パイオニア現地試験結果(熊本)より


発芽直後(左:不耕起、右:ロータリー耕)


発芽2週間後(左:不耕起、右:ロータリー耕)

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4.耕起の意味
 このように不耕起でもほぼ同様な生産性を示すとしたら、耕起の意味はなんだったのかと考えてしまいます。我々はこれに答えるだけの十分な科学的データをまだ持ってはいません。しかし少なくとも言える事は、耕起すればするほど作物の生産性が上がるとは必ずしも言えないという事実です。
 我国の畜産地帯はその多くが火山灰土壌に分布しております。典型的な火山灰土壌である黒ボクは、表層は腐植に富み、土は多孔質・粗粒質で軽しょうです。ある研究者によると「もし耕起のねらいが土壌の膨軟化、通気性・透水性の改善にあるとしたら、黒ボクにたいする耕起の必要性は極めて低いものになる。」と述べております。
 アメリカでのデータをみると、不耕起を繰り返すと土壌が固くなることが認められます。我々は土が固くなると作物の生育に悪い影響を与えると考えがちですが、土壌が固くなることと作物の収量性に明確な因果関係が認めらないことも事実なのです。
ただし表2にも示したように、排水性の改善という見地からは耕起は意味のあるものかもしれません。しかしそれが、かならずしも時間のかかるロータリーやプラウでなく、短時間に大きな面積を処理できるサブソイラーでもよいかもしれません。あるいは、前作でプラウをかけたり一年おきにプラウやサブソイラーをかけることは現実的な対応でしょう。

5.不耕起の本当の価値
 我々は不耕起の本当の価値は収量の多い少ないだけで評価されるべきではないと考えます。不耕起の最大の特徴は耕起作業をしないため大幅に労力・時間・燃料が節約される点にあります。作業時間でいうと慣行法のおおむね五分の一になるのです。もしこのわずかな労力で慣行法とほぼ同じ収量が得られれば、生産性は向上したことになるのです。あるいは、もっと多くの面積を播種することが可能となります。
 特に九州の二期作栽培は播種時期が大変重要になってきます。おおむね8月の第1週までに播種を終わらせないと、11月の収穫期までに登熟しません。耕起作業で時間をついやし播種が遅れ、水分の高いサイレージを収穫するより、不耕起でタイムリーに播種する事のほうが家畜の生産性からみて優れていると思われます。

 

ロータリー耕

播種

除草剤

生草収量

乾物率

乾物収量

慣行法

38

26

11

75

3,988

16.9

674(100)

不耕起法

15

15

4,608

16.3

751(111)


パイオニア二期作試験結果(1997年11月)より 
※降霜が例年になく早く、充分に登熟しなかったため収量は低かった。

6.不耕起成功の鍵
1)雑草管理

不耕起を成功させる最大の鍵は雑草管理にかかっているといっても過言ではありません。なにしろ畑をまったく耕さず播種するのですから、トウモロコシの生育初期の頃から草だらけになります。このため、いかにして効果的に雑草を抑制していくかが極めて重要になります。このためには除草剤を散布するタイミングも今まで以上に大事になります。特に二期作の場合は温度が高く雑草の生長が早いため、3日散布を遅らせると取り返しのつかないことになる場合があります。
播種する畑の雑草の状況によりいくつかの防除法がありますがその要点を示します。


トウモロコシは播種から発芽までに、春播きで約10日、二期作で約4日かかります。この間に雑草が畑を覆ってしまうような状況は、播種時あるいは播種前に雑草を防除しておく必要があります。ラウンドアップを前面散布することをお勧めします。ラウンドアップは、播種と同時に散布してもトウモロコシの発芽や生長にまったく影響ありません。
不耕起プランターに装備されている散布機を使い高濃度散布、つまり10アール当たりラウンドアップ250〜500ccを25リッターの水に溶かして散布すれば十分な効果が期待できます。(図参照)


播種直後(ラウンドアップ同時散布)


1週間後(雑草は枯れ、トウモロコシは順調に生育)

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播種後雑草が出てきた場合
播種時にはほとんど雑草がなかったが、図に示したようにトウモロコシの生育とともにイネ科・広葉の雑草が増えてきた場合は、ワンホープ乳剤(10アール当たり100cc)とバサグラン液剤(10アール当たり200cc)を混合して、トウモロコシの4から5葉期に散布します。二期作の場合、播種から5葉期までおおむね10日程度で到達します。これで散布時に生育しているほとんどの草を抑制することができます。また、おもにイネ科の雑草が多い場合はワンホープ乳剤だけを、広葉の雑草が多い場合はバサグラン液剤だ
けを使ってください。


トウモロコシ5葉期頃にワンホープ・バサグランを全面散布


1週間〜10日後、雑草をみごとに抑制

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 ワンホープ乳剤は、特にジョンソングラスやメヒシバの多い畑には有効です。ただし、いくつかの品種に対し激しい薬害を生ずるので十分注意してください(図)。パイオニアの品種は、春に播種される品種は安心してワンホープ乳剤が使えますが、二期作品種「3008」は完全に枯れてしまします。「3081」はワンホープ乳剤に対し完全に抵抗性を持っています。


ワンホープの薬害で全滅したトウモロコシ


ワンホープ抵抗性試験(品種により大きな差)

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畑に雑草が少ない場合
従来からの土壌処理剤(ラッソー・ゲザプリムまたはゲザノンフロアブル等)を播種直後か発芽直前までに散布します。非常に少なければ二期作の場合は除草剤の散布そのものが必要ないかもしれません。

2)肥培管理
不耕起栽培だからといって特別に変わった肥培管理が必要なわけではありません。ただし不耕起プランターは通常の肥料は播種と同時に散布できますが、石灰等の土壌改良剤は播種時に投入できませんので前作あるいは後作で投入するよう計画してください。
スラリーや堆肥の散布についても播種前に散布します。十分土が乾くのを待って播種すれば不耕起プランターの播種の障害にはなりません。
スラリーはトウモロコシの生育期(5から6葉期頃)に散布することも可能です。特に水で薄める必要はなく、おおむね10アール当たり現物3トンから7トン程度とします。一時的にトウモロコシは倒伏し、葉の周辺が一時枯れますが急速に回復してきます。

連続的な糞尿の投入で窒素やカリ過剰が心配される畑
畑に予め約7トンのスラリーを散布し、播種時にリン安20kgだけを散布
 

窒素

燐酸

カリ

マグネシュウム
乾物収量1.5トンの時トウモロコシが収奪する成分量(Kg/10a)

20

5

25

5

5トンの糞尿を投与した場合の成分供給量

10

2.5

25

2.5

5トンの糞尿を投与した場合の成分不足分

10

2.5

0

2.5

7トンの糞尿を投与した場合の成分供給量

14

3.5

35

3.5

7トンの糞尿を投与した場合の成分不足分

6

1.5

 過剰

1.5



糞尿現物1トン当たりから作物に利用される肥料成分量(kg)
 

窒素

燐酸

カリ

マグネシュウム
堆 肥

0.5

1

3.5

0.5

尿

5

0

9

0

スラリー

2

0.5

5

0.5


畑に散布する量は堆肥で年間10アール当たり5トン程度、スラリーで15トン程度としてください。

年間の糞尿の排出量(トン/頭)
 

尿

糞尿合計
搾 乳 牛

14.6

7.3

21.9

育 成 牛

5.5

2.7

8.2

子 牛

1.8

1.3

3.1



3)品種の選択
 不耕起栽培では二つの意味で品種の選択が重要になります。まず第一番目に、不耕起の場合、慣行法と比較すると地温の上昇がややおそく、播種した種子と土の接触が不均一なため発芽にバラツキがでてやや初期生育が劣る場合があります。特に温度の低い春に不耕起播種をされる場合は、遺伝的に初期生育の良い品種を選択しないと苗立ち枯れ病を誘発する場合があります。二期作では温度が高くこの問題はありません。
 二番目の点は、除草剤ワンホープ乳剤に対する抵抗性の問題です。不耕起ではしばしばワンホープ乳剤を使用しますが、ある品種はワンホープ乳剤に対し極めて敏感に反応し、枯れてしまうものがあるのです。生育期のイネ科雑草の防除には現在のところワンホープ乳剤を上回るものはありません。播種しようとしている品種にワンホープ乳剤が安全に使えるかどうか予め調べておいてください。

4)土壌条件
 粘土質が強く排水の悪い畑は、ロータリーで耕起しても生育は悪いものです。このような畑は、トウモロコシの不耕起栽培は適しません。
 また、排水の良い土壌でも、雨の後土が十分乾いていないのに播種するのは危険です。播種床をプランターが固く締め付けトウモロコシの生育を抑制する危険があります。不耕起プランターは、10分から15分で1反を播種します。焦ることはありません。十分土が乾くのを待ちましょう。

5)プランター
 実際不耕起で播種する場合、土質にもよりますが基本的には硬くしまった土壌に直接播種するわけです。まして、イタリアン等の牧草刈取り後の播種や、二期作の播種で一期作目のトウモロコシの刈り株がまだ枯れていないような状況で播くような場合、既存のプランターでは根や残稈を切り裂きながら播種するのに強度、重量の点で問題があり、安定した確実な播種が困難です。
 そこで、不耕起栽培を成功させるための大きな要素の一つとして、不耕起播種のできる強固で頑丈なプランターは不可欠です。


不耕起播種には専用のプランターが欠かせない(通常の耕起播種にも使用できる)

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