粗飼料の品質と乳牛の乾物摂取量 〜『牛が食い込んでこそ飼料』〜
目次
1.粗飼料の品質と乳牛の乾物摂取量
2.調製条件と乳牛の採食性
3.NDFについて
4.エネルギー不足と繁殖障害
●乾乳期のエネルギー不足
●産辱期(泌乳初期)のエネルギー不足
●過肥牛症候群(ファットカウシンドローム)5.エネルギーとタンパク質
●栄養供給に関する概念
●ルーメン内のバランス
●粗飼料の品質が何をもたらすか
6.『牧草の若刈=最大利益』なのでしょうか?
7.サイレージの切断長と乳成分
8.サイロからの収量増加を考えよう。
1.粗飼料の品質と乳牛の乾物摂取量
乳牛の飼養管理のポイントを簡潔に述べるとすれば『まず、腹いっぱい食わせること、つぎに、バランスを考えること』です。どんなに栄養バランスが優れていようとも、乳牛が『そのエサ』を食べてくれなければ、初めからレース(競争)になりません。
粗飼料分析が普及したおかげで、粗飼料の『品質が高い=栄養濃度が高い』ことであるという認識をお持ちの方が多いようです。いわく『給与する粗飼料は、最低でも乾物中のTDNが55%以上なければならない』とか『牧草は、粗タンパク質割合が12%以上なければならない』などの議論です。これは、ある面でまったく正しいことではありますがある面で『大きな勘違い』をも引き起こしています。
なぜなら、必ずしも『粗飼料分析値=乳牛の乾物摂取量』にはならないからです。粗飼料分析の結果でどんなに栄養濃度が高くてもその粗飼料の嗜好性が悪く、乳牛の採食量が'低下していれば、文字通り『糞の役にもたたない』からです。
逆に、粗飼料の栄養価が多少低いという結果がでたとしても、その低下以上に乳牛の採食量があれば、乳牛の必要とする栄養は、十二分に賄えることになるからです。
図1と表1に『飼料給与の優先順位』と『乳牛の乾物摂取量を決める粗飼料の要因』を示しました。
結論を申し述べれば、自給粗飼料の品質とは、粗飼料の栄養濃度より、その粗飼料を乳牛がどれだけ採食できるかという『乳牛の乾物摂取量』の大きさで決まるのであり、これを無視した栄養濃度の語は『木を見て森を見ない』に等しい議論なのです。図1.飼料給与の優先順位
表1.乳牛の乾物摂取量を決める粗飼料の条件
1.飼料の消化性 2・飼料のルーメン通過時間 3.飼料全体の乾物割合 4.飼料の嗜好性 5.貯蔵品質の安定性 6.飼料の組合わせ
2.調製条件と乳牛の採食性
『栄養濃度の高い粗飼料ほど乳牛の採食性が高い』というのが一般的な栄養学の概念です。すなわち、牧草の場合には『若刈すればするほど栄養濃度は高くなり、かつ、採食性も増加する』ということになっています。しかし、この概念が通用するのは『粗飼料の調製条件が同一であること』が大前提になっている場合だけなのです。たとえば、混播牧草を次の3つの条件でサイレージ調製をした場合を考えてみます。
《1》出穂初期にダイレクトカットでサイレージ調製をした場合、
《2》出穂初期に刈り取り、予乾し、中水分(65%)のサイレージを作った場合、
《3》出穂中期で刈り取り、予乾し、中水分(65%)のサイレージを作った場合、
それぞれのサイレージを自由採食させ、その乾物摂取量を比較したときにどういう順序になるのでしょう。栄養学の概念で見ると《1》と《2》の場合はまったく同一で、乳牛の採食性もまったく変わらないことになるはずです。
ところが実際には、《2》>《3》>《1》の順序で乳牛の乾物摂取量が変化してしまいます。
トウモロコシサイレージにおいても同じようなことが生じます。トウモロコシは、その熟期によって乾物の消化率(栄養濃度)がさほど変化しないという特性をもっているとされている飼料作物です。つまり、一般的な栄養学の概念で考えれば、いつ収穫しても同じような採食性が得られる作物であるはずなのですが、実際には、未熟な状態で収穫し、トウモロコシサイレージの水分割合が多くなればなるほど乳牛の乾物摂取量が大きく低下してしまうのです。
このように自給飼料の『採食性』には、その収穫時期の違いによって生じる『乾物消化率』や『栄養濃度』の違いだけではなく、『飼料の水分割合』や『発酵品質』、『サイレージの切断長』などの『調製条件』の違いも大きな影響を与えているのです。表2. 欧州の飼養標準に基づく主な自給飼料の最大乾物摂取量(INRA,1989)
−生体重600kg、20kg産乳の標準牛−
草種と収穫時期 サイレージの調整方法 ダイレクトカット 予乾(DM35%) 長い切断長 短い切断長 短い切断長 混播牧草 10%出穂期 13.4 14.8 16.7 50%出穂期 13.0 14.4 15.7 2番草 13.7 15.3 16.8 オーチャードグラス 出穂1週間前 13.5 14.9 16.8 10%出穂期 13.1 14.5 16.3 100%出穂期 12.2 13.5 15.0 2番草 13.7 15.3 16.2 アルファルファ 10%着蕾期 15.7 17.3 50%着蕾期 15.5 16.8 2番草 15.5 16.8
トウモロコシの収穫時期 短い切断長 通常のコンディション 糊熟期(DM25%)13.9 黄熟期(DM30%)15.0 黄熟期(DM35%)16.5 良好なコンディション(雌穂割合65%以上) 17.3 不良なコンディション 冷夏(開花後2ヶ月後の刈取り)13.6 被霜(未熟)(被霜後3週間後の刈取り)13.6 干ばつ(雌穂割合50%未満)14.8 3.NDFについて
1983年にマーテンス博士が発表したNDFと産乳性に関する論文に基づき、NDF(中性デタージェントセンイ・総センイ)の値から、乳牛の乾物摂取量を予測できるとする方も多く見受けられます。
しかし、実際には、草種が異なることによってNDFの採食限界量が違ってしまったり収穫時期が同じでNDFの値は変わらないのにも関わらず乾物割合や発酵品質の違いによって採食量が変わる場合が多いのです。こうした採食量の違いをNDFの理論だけでは説明することができません。そのため、NDFに関する理論を一般的な概念としてとらえることについてはやぶさかではありませんが、一種の指標のようなものを定めて実際の飼料給与の目安として使用するのには、まだ、実用段階ではないような気がします。
最新のNDFに関する研究報告では、『乳牛は、まるで人間の作った栄養学の法則を壊すことを楽しんでいるかのように見える』と表現されているほどなのです。表3. 自給粗飼料の飽食実験−体重635kg、FCM:25kg/日(帯広畜産大学、1991)
自由採食した粗飼料 濃厚飼料 DMI DMI/体重% NDF/体重% 牧草サイレージ 4kg 21.3kg 3.40% 1.71% トウモロコシサイレージ 4kg 19.1kg 3.10% 1.15% 50%+50% 4kg 22.4kg 3.50% 1.59%
4.エネルギー不足と繁殖障害
エネルギー不足の状態は、乳牛にさまざまな影響を与えます。特に分娩前後にエネルギーの不足が起こると、繁殖プログラムに大きな影響が現れます。繁殖プログラムに異常が生じた場合、どの時点でエネルギー不足が起こっているかを判断し、飼料給与の改善の目安としてください。●乾乳期のエネルギー不足
分娩前(乾乳期)のエネルギー不足は、分娩後の再発情の遅延を招きます。乾乳期に乳牛が痩躯状態に陥っている場合や高泌乳牛にも関わらずにリード・フィーディング(フラッシング:分娩前の慣らし飼い)を怠っている場合に生じます。『発情が弱い』あるいは『発情がこない』という状態も分娩前(乾乳期)のエネルギー不足が原因です。これは、分娩を境にして体重が20%以上減少すると発情を支配する脳下垂体の機能異常が発生する為に起こる現象です。
端的に述べれば、『発情がこないのは、乾乳期の管理が悪い』ということになります。乾乳期の管理がしっかりできていて、乳牛がエネルギー価の高い糧飼料を十分に食い込んでいれば、このような問題が生じないといっても過言ではありません。乾乳期にもある程度トウモロコシサイレージを給与することが安全で経済的な実践手法です。●産辱期(泌乳初期)のエネルギー不足
分娩後のエネルギー不足は、受胎率の低下を招きます。これは、『発情はくるんだが、とまりが悪い』という現象のことで、高泌乳牛が発生し始めた15年ほど前によく起こった現象です。その当時には、『高泌乳牛ほど繁殖管理がむずかしい』と言われていたものです。最近になって、こうした現象が再び増加傾向にあるのは残念なことです。『過去の経験が活かされていない』と言われても仕方がないことでしょう。
これは、分娩後のエネルギー不足による卵巣の機能回復が順調に行われていないことの現れ(この現象の甚だしいのが卵巣膿腫)です。
この問題を回避するための手法が『チャレンジ・フイーディング』といわれる濃厚飼料の『先やり』給与方法です。しかしながら、この手法も『高品質の粗飼料が十分給与されている』ことを前提としたものなので、栄養濃度の高い濃厚飼料を幾ら増し飼いしたとしても問題の根本的な改善とはなりません。このことは、昭和50年代の高泌乳牛ブームの際に繁殖障書が多発したことが如実に物語っています。劣質な粗飼料の給与による乾物摂取量の低下が引き起こすエネルギー不足を濃厚飼料の増給だけでは補いきれないのです。分娩後にトウモロコシサイレージや若刈の牧草サイレージのようなエネルギー価の高い粗飼料を十分に食い込ませる以外に最近の高泌乳牛の繁殖プログラムを正常に保つ経済的な手法はないともいえるでしょう。●過肥牛症候群(ファットカウシンドローム)
過肥牛の場合には、『発情の遅延あるいは停止』と『受胎率の低下』が同時に起こります。これは、分娩後に蓄積エネルギー(体脂肪)の代謝が正常に行われないために起こるのです。このトラブルを恐れる余り、泌乳後期に過肥となった牛を乾乳期間中に痩せさせようとする方がいます。こうしたことを行った場合には、たとえ、分娩時にちょうど良いボディ・コンディションであったとしても前述の分娩前のエネルギー不足とまったく同じ現象がさらに激しく発生してしまいます。『乾乳期間中にボディ・コンディションを低下させない』というのは、乳牛の繁殖管理の鉄則です。
『トウモロコシサイレージの給与が過肥牛を生み出す』といわれたのは、過去の大きな誤解の産物です。過肥牛を生み出しているのは、不必要な濃厚飼料の過剰給与なのであります。最近では、このような現象は少なくなり、むしろ痩躯(痩せ過ぎ)の状態で問題が発生しているケースが多くなってきました。図2. 高泌乳牛の立ち上がりおよび濃厚飼料の給与量におよぼす粗飼料品質の影響
5.エネルギーとタンパク質
乳成分の低下や繁殖障害など、乳牛飼養の現場で生じるさまざまな問題のほぼ80%近くが、エネルギーとタンパク質のバランスに原因があるといわれています。『これほど飼料分析や設計をするための計算が発達していても、エネルギーとタンパク質のバランスがとれないということがあるのか?』という疑問を持つ方も多いでしょう。そこで、この段では、この疑問についてふれてみたいと思います。●栄養供給に関する概念
乳牛への栄養供給を考える際には、『乳牛という生体に対しての栄養供給』と『ルーメン(第一胃)の中に生息している微生物へ対する栄養供給』の二つのことを考慮にいれなければなりません。一般的に行われている『飼養標準に基づいた乳牛の栄養要求量を満たすための飼料設計』は、『乳牛という生体に対しての栄養供給』を計算することで、これは、ルーメンが正常に機能しているという前提で成り立っています。
ところが、そのルーメン(第一胃)の機能を正常に維持するための『ルーメンの中に生息している微生物へ対する栄養供給』に関しては、『概念は解っているが実際的な計算ができない』というのが現状なのであります。なぜなら、『ルーメン内で起こる栄養成分の分解と再合成は単一の微生物の働きで起こっているのではなく、さまざまな微生物の複合的な活動によってなされる』からです。飼料設計を行ってもなおかつエネルギーとタンパク質のバランスが崩れるのは、この部分においてなのです。そして、まさに『個々の農家の経験と勘に頼らざるを得ない部分』であるということができます。『飼料設計を幾ら行ってもなかなか成果が上がらない』という現場の声が多いのもこうしたことによるのでしよう。
近年注目されている『バイパス・タンパク質』や『バイパス・エネルギー(バイパス油脂など)』は、ルーメン内で起こる栄養成分の分解と再合成の影響をほとんど受けずに利用されるチッ素化合物と炭水化物のことで、人間や豚などの単胃動物と同じような消化吸収をする栄養成分のことです。このバイパス性の栄養成分は、『ルーメンで生産され、乳牛に供給される栄養以上に乳生産がある』という場合に必要となる『補足的な栄養成分である』と考えた方がよいでしょう。また、ルーメンの機能維持とはほとんど関係がない部分でもあるので、エネルギーとタンパク質のバランスを考える時には、分けて考える方がよいでしょう。さらにつけ加えておきたいことは、バイパス性の高い特別な飼料をその個体の乳量を考慮しないで給与するというのは、『経済性を無視した趣味的な行為』であるといわざるをえません。●ルーメン内のバランス
飼料分析の結果や飼料成分表に表示されている『粗タンパク質』とは、『真のタンパク質』ではありません。その実態は、『チッ素の重量を6.25倍した値』であります。では、なぜこの値をタンパク質として表示しているのかというと、乳牛に採食された飼料の《チッ素化合物》は、ルーメンのなかで《アンモニア》に分解された後、《微生物タンパク質》に再合成されるからであります。いわば、ルーメンのなかで『《有機物》→《無機物》→《有機物》』という分解と再合成が同時に連続的に行われているのです。そのためルーメン内にチッ素化合物が《有機物:タンパク質》という形で入ろうが《無機物:非タンパク熊チッ素》の形で摂取されようが最終的には、微生物タンパク質という形で利用されるため『ルーメン内の微生物の活動が十分に保たれているならば、アンモニアや尿素などのチッ素化合物でさえ、真のタンパク質と同じように利用できる』のが乳牛などの反蜀家畜の最大の特徴なのです。
ルーメン内でのエネルギーとタンパク質のバランスが問題になるのは、『アンモニア』が『微生物タンパク質』に再合成されるときです。ルーメン内で作られた『アンモニア』が、すべて『微生物タンパク質』に再合成されるわけではありません。『アンモニア』を『微生物タンパク質』に再合成するためには、それに見合うエネルギーを供給しなければならないのです。このエネルギーは、『ルーメン内で分解される(=再発酵性の)有機物』すなわち、デンプン質などを中心とした炭水化物なのです。
『無脂乳固形分や乳タンパク質の割合を上げるのには、大麦を増給すれば良い』と言われるのは、こうしたことによります。こうしたルーメン内のエネルギーとタンパク質のバランスを保つためには、それぞれの分解スピードをも考慮しなければならないとされていますが、個々の飼料を別々に給与してこれを実現することは、理論的には可能ですが、実際的にはおおよそ不可能なことでしょう。実際的な手段として挙げられるのは、『分解性のエネルギーと分解性のタンパク質の量的なバランスのとれた飼料を飽食させる』ことです。具体的にいえば、『TMRの二十時簡以上の自由採食』の実践です。
一時期、『デンプン質の過剰給与によって乳脂率が低下する』とか『バイパス油脂の給与が乳脂率を上げる』などが喧伝(けんでん)されたことがあります。実際にこの伝にしたがって給与を変更すると一か月余りの短期間は成果がみられても、その後、元に戻り、あるいは、以前より低下するといった経過をたどることが多かったようです。こうしたケースは、『ルーメン内微生物に対する栄養供給とバランスを忘れた結果である』といえるでしょう。
乳牛に対する飼料給与の実際においては、『マジック・フィード(魔法のエサ)』はないのです。
図3. エネルギーとタンパク質のバランス図4. ルーメン内のエネルギーとチッ素のバランス
●粗飼料の品質が何をもたらすか
粗飼料の品質低下を濃厚飼料の増給でカバーできるのでしょうか?
飼料計算にコリ始めると、『粗飼料の品質が多少悪い場合でも、飼料計算をして濃厚飼料を増やし、家畜の要求量を満足してやれば良いのではないだろうか』という考え方に到達しがちです。飼養標準を見ても、家畜の要求量には、『粗飼料の要求量』とか『濃厚飼料の要求量』というものはなく、『エネルギーとタンパク質、カルシウムとリンの要求量』があるだけであります。したがって、こうした考え方は、『マコトニゴモットモ』なこといわざるをえません。
しかしながら、現実には、『粗飼料の品質が悪かったから乳量が伸びなかった』という話をよく耳にします。もし、先に述べたことが飼養管理の全てならば、こうしたこと'が起こるのは、『飼料設計をしていなかった』からか『飼料設計がまちがっていた』ということになってしまいます。本当にそうなのでしょうか?
ケイワス博士が1983年に行った給与試験の結果をご紹介しましょう。この実験は、刈り取り時期の異なるアルファルファの乾草をべ一スとし、濃厚飼料の給与比率を20〜71%まで変え、その飼料を給与した乳牛の産乳量を測定しています。平均乳量の変化を見ると、濃厚飼料の給与比率を増加することで、緩やかなS字曲線を描いて乳量が増加して行くことが解ります。濃厚飼料の比率を20〜54%に増加することで、産乳量をほぼ直線的に押し上げることが可能ですが、それ以上増加しても乳量の増加が望めないことを示しています。このことから、TMRで飼料給与を考える場合、濃厚飼料の割合を50%前後にすると良いということが言われるのです。
ちょっと乱暴な拡大解釈をして、濃厚飼料を給与比率ではなく、計算上求められた推定量で表現すると、濃厚飼料の給与量が4〜12kgぐらいまでは、濃厚飼料の増給によってほぼ直線的に産乳量が増加し、それ以上濃厚飼料を給与しても、乳量の増加には、さほど貢献しないということになります。つまり、『濃厚飼料は喰わせても12〜13kgまで』という長い間に培われた経験則の裏付けであるとも言えるのです。表4 粗飼料の品質と濃厚飼料レベルが乳量に及ぼす影響−アルファルファ乾草
(kAWAS、1983)*筆者加筆部分
濃厚飼料乾物中(%) アルファルファ乾草の刈り取り時期 搾乳牛あたり濃厚飼料推定給与量(s/頭/年)※ 開花前 開花初期 開花中期 開花後期 平均 20 36.2 30.9 26.0 23.7 29.2 1,200 37 37.8 31.4 28.4 25.2 30.7 2,300 54 39.6 35.1 29.4 31.6 33.6 3,500 71 39.1 35.1 29.4 31.6 33.8 4,600 平均 38.2 33.1 28.5 27.5
ケイワスの実験で示されたもう一つの重要なことは、アルファルファの刈り取り時期と乳量の関係であります。
まず、それぞれの濃厚飼料の給与レベルで年間使用する濃厚飼料の合計量を推定してみます。濃厚飼料の給与比率が20%レベルというのは、年間で便用する搾乳牛一頭あたりの濃厚飼料の合計量が、約1,200s、34%レベルでは、約2,300kg、54%レベルでは、約3,500kg、74%レベルでは、約4,600sに相当します。
ケイワスの実験結果によれば、濃厚飼料の給与比率を20〜54%まで増加することで平均産乳量を約4kgほど『押し上げる』ことを示していますが、一方、アルファルファの刈り取り時の生育ステージを一段階早くすることは、なんと、約5sもの平均産乳量を『押し上げる』ことになっているのです。しかも、開花前から開花中期にかけては、濃厚飼料を限界レベル(74%)まで増加して乳量を増加した場合より、刈り取り時の生育ステージを一段階早くして濃厚飼料を最低レベル(20%)で給与した場合の方が産乳量が高いという結果になっています。分かりやすく述べると、年間搾乳牛一頭あたり3,500kg以上の濃厚飼料を使っている人より、年聞1,200s程度しか濃厚飼料を便用していなくても牧草を一週間早く刈っている人の方が高い乳量を生産する可能性があるということでもあるのです。
図5 ケイワスの実験
刈取り期別の平均乳量の違い
このことは、『粗飼料の品質低下を濃厚飼料をいくら増給してもカバーできない』ということを端的に示しているばかりでなく、粗飼料の品質を向上することで『濃厚飼料を減らして産乳量を維持することが可能である』ことも示しているのです。また、それぞれの乳量から算出される乳代から濃厚飼料の購入合計金額と便用する粗飼料の生産コストを差し引いた『粗利』を計算すれば『最大乳量が必ずしも最大利益を生むことにはならない』ということも理解できると思います。
もう一つ蛇足ながらつけ加えなければならないのは、『この実験は乾草で行われた結果である』という点であります。乾草は、『調製条件の違いによる採食量の違い』が現れにくいので、『粗飼料の品質=刈り取り時期』という単純な図式になりますが、粗飼料がサイレージの場合、『粗飼料の品質』には、『刈り取り時期』だけではなく、『発酵品質』と『水分割合(乾物率)』という二つの条件をつけ加えなければなりません。
この結果を『アルファルファだからこのような差が生まれた』という方がいるかもしれませんが、逆に『アルファルファだからこの程度の差しかでなかった』というべきでしょう。刈遅れによるイネ科牧草の品質低下はアルファルファの比ではないのですから…。
あなたの濃厚飼料の便用量と平均乳量は、いかほどでしょうか?
粗飼料は、『量より質だ』というけれど…。
自給粗飼料の高度な利用を実践している欧州で使われている『濃厚飼料の給与の指標』を見てみましょう。
この指標を見ると、粗飼料を無制限に給与した場合には、粗飼料の品質が上がれば上がるほど、高濃度の濃厚飼料を小量便う方が有利であるとしています。これは、『品質の高い粗飼料は、エネルギーとして、濃厚飼料との置き換えができる』ためであるとされています。
つまり、粗飼料の品質が高く、その摂取量が多ければ、濃厚飼料は、乳量に見合ったタンパク質の補給さえすればよく、供給されたタンパク質に見合ったエネルギーは、粗飼料から引っ張ってくることができるというのです。
ところが、粗飼料の品質が悪く、その摂取量が少なければ、粗飼料からのエネルギー供給が少なくなるため、給与すべき濃厚飼料は、タンパク質とエネルギーを同時に満たしたものでなければなりません。すなわち、栄養濃度の低い、中間的な濃厚飼料を量的に多く使用しなけれぱならないということになります。
こうしたことが期待できるのは、粗飼料を無制限に給与した場合には、『粗飼料の品質の向上』が『粗飼料の採食量の増加』に直結するからです。そのため、粗飼料の品質がいくら良くても、その給与量を制限した場合には、『粗飼料の採食量の増加』にはならないため、給与すべき濃厚飼料の種類やその効率は、品質の悪い粗飼料を無制限に供給した場合とまったく同じとなります。もちろん、濃厚飼料の一般的な単価としては、栄養濃度の低い種類の方が安いのですが『安いものを大量に使用する』場合と『高いものを小量便用する』場合のどちらが経済的かを十分検討しなければなりません。欧州の農家は、『高いものを小量使用する』方を選んでいます。
端的に述べれば、『品質の良い粗飼料が小量しかないため、その給与量を制限しなければならない場合』も『品質の悪い粗飼料が大量にあって、それを飽食にした場合』も同じ結果となってしまうのです。したがって、自給粗飼料は『質と量』が同時に実現していなければ、『乳牛の飼養管理』に対しても『酪農経営』に対しても、同じように不経済なのがよく解ります。表5 粗飼料の品質と濃厚飼料の給与量
粗飼料
の品質粗飼料から
期待できる
4%FCM生産量設定する濃厚飼料の
栄養比CPg/TDNkg配合飼料1kgの給与で何kgの
産乳量が期待できるのか?TDNの濃度(現物中) 75% 68% 60% 1.粗飼料を無制限に与えている場合(粗飼料の飽食) 劣悪 5kg以下 265g 2.2kg 2.0kg 1.8kg CP% 20% 18% 16% 並 5〜10kg 300g 2.4kg 2.2kg 2.0kg CP% 22% 20% 18% 良質 10〜15kg 340g 2.6kg 2.4kg 2.2kg CP% 25.5% 23% 20.5% 特良 15kg以上 360g 2.8kg 2.6kg 2.4kg CP% 27% 24.5% 21.5% 2.粗飼料を制限して与える場合 7.5kg以下 265g 2.2kg 2.0kg 1.8kg CP% 20% 18% 16% 7.5kg以上 300g 2.4kg 2.2kg 2.0kg CP% 22% 20% 18%
6.『牧草の若刈=最大利益』なのでしょうか?
単年度で考えるならば、『その通り!』ということができます。しかしながら、『牧草の若刈』を実行する時、別の厄介な問題が農家に突きつけられることになります。それは『乾物収量の低下』と『草地の維持年限の低下』です。
この二つの問題は、牧草の『草種や品種』が『若刈(多回刈)』に適しているかどうかにかかっているといってよいでしょう。そして、それに加え『草地への施肥』がその草種と管理方法に適したようなされているかどうかがもう一つのポイントです。
もう一つ『牧草の多回刈と若刈は別である』という方がいます。たしかに極早生のチモシーを使用し、いずれも出穂期に3回刈り取る場合と中・晩生品種を出穂前に3回刈り取るのは、同じ3回収穫でも、その意味することはまったく異なります。ここでいう『牧草の若刈(多回刈)』に当たるのは、後者の場合のみです。
牧草の草種には、『若刈(多回刈)』をすることで『乾物収量の低下』を引き起こすものとそうでないものがあります。それは、その草種の『再生力の強さ』によると考えて良いでしょう。主幹草種の再生力の強さを比較すると、『ペレニアル・ライ・グラス>アルファルファ≧オーチャード・クラス>チモシー』の順でしょう。
『草地の維持年限』は、『草種・品種の越冬性の強さ』と『刈り取り管理+施肥管理』がその草種の特性に合うよう適正に行われているかどうか、混播草地の場合には、『草種同士の競合力』なども問題となります。『草種による施肥反応の違い』や『イネ科とマメ科の混播比率』を無視した肥培管理は、草地の荒廃をまねき、最終的に乾物収量の低下を引き起こしてしまいます。
こうした『草種の特性』や『草種同士の競合力』を無視した刈り取りや肥培管理を行っていながら『○○が消えた』というのは、草地の管理者として無責任な言い方で、正しくは、『○○を殺した』というべきでしょう。
たとえば、『チモシーとラシノクローバーを混播し、それをチモシーの穂バラミ前に刈り取り、わざわざ加酸法で高水分のサイレージを作る』などというのは、農場経営が経済行為であるということを無視した、まさに、正気の沙汰とは思えない行為です。
『アルファルファが3年で消える』のは、『草種・品種の問題』なのか『栽培管理上の問題』なのかは、再検討する必要があるでしょう。
『若刈(多回刈)』は、『牧草の高度な集約的利用方法』です。『牧草=クサ』という『粗放な意識』で『若刈(多回刈)』を行えば、『飼養管理上のメリット』より、『自給飼料生産上のデメリット』の方が大きくなってしまいます。『地域に適した草種の選定』と同時に『利用方法に適した草種の選定』も必要なのです。
地域の条件が、集約的な利用に耐えられないチモシーという草種の生存しか許さないなら、無理な『若刈(多回刈)』をするより、赤クローバーの追播による栄養濃度の改善と収量増加をねらい、飼料給与の側面からは、トウモロコシサイレージとの組み合わせを考えた方が『経済的に賢明な行為』であるといえるのです。
あなたの草地にある牧草は、『若刈(多回刈)』に適する草種ですか?
あなたの地域の条件でトウモロコシサイレージを作らずに『自給飼料の質と量を同時に確保』できますか?
図6 各草種の生産曲線
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7.サイレージの切断長と乳成分
反芻時間の維持をすることを目的に『長いセンイが必要である』とする方が多いようです。たしかに、無切断の乾草を給与した場合には、乳牛の反芻時間が長くなることは、数多くの給与試験の結果を見るまでもなく、パドックにいる乳牛を観察しただけでも分かります。このことから、サイレージの切断長も長い方が『ウシのためにヨイ』という方が多いようです。
ところが、同じ材料を同じ水分でサイレージにしても、どのように切断したかという違いで乳牛の採食量が違うという現象が起きてしまいます。切断長が長ければ長いほど、疎らな切断であればあるほど、摂取量が低下します。そのため、実際に給与実験を行い、乳量や乳成分を測定すると、期待とはまったく逆の『切断長が長いほど低下する』という結果となってしまうのです。
また、『ルーメンの恒常性を保つ』ことを目的とするならば、反芻時間だけではなく、飼料の採食している時間を含めた乳牛の咀嚼時間が問題なのです。もし、飼料が不断給餌されているのならば、その飼料の物理的な長さが短くても採食時間が増加することで採食時間が延長され、反芻時間の短縮をある程度カバーできるのであります。
こうしたこと以外にも、短く、均一で、鋭利な切断は、サイレージの詰め込み密度を高める手助けとなるため、『サイロ開封後の発熱(二次発酵)』を予防するもっとも有効な手段となります。
これは、例に上げたコーンサイレージだけではなく、牧草のサイレージでもまったく同じ結果が生じます。表6 不断給餌におけるコーンサイレージの切断長と産乳量、乳成分の関係
細かい均一な切断長の場合 通常の切断長の場合 引きちぎったような切断長の場合 650kgの乳牛の乾物摂取量 14.8kg(+1.1) 13.7kg 12.7kg(-1.0) 泌乳中期の
産乳量21.0L(+1.0) 20.0L 18.3L(-1.2) 乳脂率 3.84%(-0.06) 3.90% 3.70%(-0.20) 乳タンパク率
(真性タンパク質量)3.05%(+0.05) 3.00% 2.87%(-0.13) 8.サイロからの収量増加を考えよう。
自給粗飼料の給与量を増加する手段としてもう一つ重要な点は、収穫から給与までの間で生じる『損失』です。この損失には、『圃場損失』といわれる収穫時の取り残し分、『貯蔵損失』といわれる乾草舎やサイロ内でカビの発生や発酵することで失われる分、『給与損失』といわれる食い残し分があります。これらの損失は、自給飼料をどのように調製するかという条件によって大きくなったり少なくなったりします。
次の表は、ホーズ・デーリィマンという全米でもっとも権威ある酪農雑誌が大規模に行った実態調査をまとめた報告です。この報告によれば、この損失の大きさは、実際に自給粗飼料の生産を行っている農家の方々が思っているよりはるかに大きいとされています。
しかも、この『損益の差』は、圃場収量が大きくなればなるほど大きくなるという性質があります。『多少損失が大きくても面積でカバーできる』という考え方では、『サイレージの調製量が多くなればなるほど大きな損失を招く』というスケールメリットならぬスケールデメリットが生じるのです。
牧草の調製においては、乾草よりサイレージ。サイレージであれば、高水分より中水分サイレージが圧倒的に有利であることがわかります。コーンサイレージについても適期に収穫することがいかに重要であるかがわかります。
『より多くの乾物摂取量が得るためのサイレージ調製の条件』は、『収穫から給与までの乾物損失を最小にするための条件』でもあるのです。図7 トウモロコシサイレージのみを給与した場合の咀嚼時間
表7 自給飼料の収獲、貯蔵、給与時における乾物損失
(ホーズディリーマン、全米調査)
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